将来計画及び運営方針 233
5-4-2 教官停年制検討小委員会報告
平成 10 年 2 月 教官停年制検討小委員会は,以下の委員によって構成され,5 回の会合(平成 9年 10月 20日,12月 22日,12月 27日,平成 10 年 2月 5日,2月 23日)と電子メールによる意見交換を行い,停年問題に関する検討を行ってきた。12月 27日の会合では,所外の 方々の意見を伺う目的で次の 6 名の方々に出席していただいた。
岩村 秀(九大),加藤重樹(京大),北原和夫(東工大),田隅三生(埼玉大),籏野嘉彦(東工大),吉原經太郎(北陸先端 大),(浜口宏夫(東大):書面で意見表明)。
委員:渡辺芳人(委員長),岩田末廣,西 信之,塩谷光彦,鎌田雅夫,山下敬郎,岡本祐幸,田原太平
(1)はじめに
分子科学研究所は2000年に創設25年を迎えようとしている。開所以来の活発な研究活動によって,化学と物理学の境界にあ る分子科学の研究を推進するための中核としての役割を果たしてきた。その高い研究活力は,ここで育った多くの若い研究者が 全国の大学等で活躍していることに端的に表れている。言うまでもなく研究所の最大の目的は,学問上世界に誇れる成果を出す ことである。優秀な若い人材を積極的に発掘し,育て,C OEとして誇れるような環境を整えるべく様々な努力を行っている。このよ うな状況の中で,分子科学研究所では1,2代目の教授が次々と停年を迎える時期が近づき,研究所をさらに発展させるために, これからの研究所の人事のあり方と関連して,教授の停年年齢延長の可否を検討しなければならないとの認識が生まれ,停年延 長に関する検討を開始した。
(2)分子科学研究所における60 才停年制の問題点
研究所では,助教授の内部昇進を禁止するという人事方針から,必然的に教授は外部から迎えなければならない状況にある。 最近の社会情勢の変化にともなって,分子科学研究所の60歳停年制が分子科学研究所への新しい教授招へいの環境としてふ さわしいとは言えなくなってきている。
近年の社会の高齢化は,大学に限らず様々な組織で停年の延長を必然的に促しつつある。また,社会的に活躍する年齢も高 くなっているのが多くの分野における近年の傾向であり,身近な例では,60才停年制のために分子科学研究所から大学等へ転 出した諸先輩は,困難な状況の中にありながらも新しい環境の中で活躍の場を切り開いておられる。分子科学研究所における停 年は研究者としての能力・活力が高いレベルにある年齢に設定されており,こうした有能な研究者が60歳で研究を停止せざるを 得ない状況が生まれるとするならば,それは分子科学研究の発展を阻害する大きな要因となる。
(3)停年延長と研究所の活力
研究所の研究活動の面から検討すると,停年延長は両側面を持っている。既述のように,これまでに停年で研究所を去られた 教授の方々や,ここ2,3年の内に停年を迎えられる教授の方々の活躍ぶりは,研究グループの研究活動はもとより国内外の専門分 野におけるリーダーシップの面でも決して衰えてはいない。これらの教授の方々が60歳という年齢で分子科学研究所での研究活 動を停止せざるを得ないのは,研究所の損失だけでなく,国内外の学問的あるいは学会の損失であると見ることもできる。諸外国, 特に米国における「停年」の柔軟な運用と比較した場合,制度の硬直化と指摘することもできる。一方,停年の延長は,短期的に は教授交代の頻度の減少をもたらし,研究所の研究活動のマンネリ化や研究分野の固定化を引き起こす可能性があることも否 定できない。特に,すべての教授が同じように高い研究活動を60歳過ぎまで保つことができるわけではないことを直視しなければ ならない。また,停年延長は,分子科学研究所が採用している助教授の教授への昇進禁止や助手の「6年任期制」という厳しい人 事政策にそぐわないとの指摘もある。
234 将来計画及び運営方針
分子科学研究所の教授定員は14人と数が限られている。研究所の比較的浅い歴史のために年齢構成に偏りが生じることが あり,一つの研究系の教授が短期間に続けて停年を迎える場合もある。他の多くの組織同様,年齢構成は組織の活力と影響力を 維持するためには決して無視できない要素である。一方,教授の採用に際しては,年齢ではなく,研究能力と研究分野こそが最 も重要な因子であることは言を待たない。教授を選出する実際の過程では,これらの要素に加えて,現実に選択できる「人材」が 重要な因子となる。結果として,比較的在任期間の短い教授を招へいする場合が出てくる。もしも,多くの国立大学と比べて3年か ら5年も停年が早いことが,分子科学研究所への赴任を躊躇させる原因であるとすれば,停年の延長によって教授として招へい することのできる人材の幅を広げることができるであろう。比較的高い年齢層の教授を採用する場合には,短い期間に確実に業 績を上げるとともに国内外の学会でリーダーシップを発揮し,研究所の活力を高めることが期待されると同時に,人事や将来計画 などの研究所の運営にその経験を生かしてもらえるという長所がある。一方,分子科学研究所では若い助教授が独立した研究 グループを形成し,新しい分野の開拓に挑んでいるが,教授にもこの役割があることは言うまでもない。従って,研究所独自の研 究を展開するためには,年齢にこだわらず,独自の研究を切り開く能力を重視した広い見地からの教授人事が望まれる。
分子科学研究所は活発な研究者を引きつけるための不断の努力を行っている。一方,先導的な大学の研究環境の整備が,相 対的に分子科学研究所の優位性を低くしている点も事実として認識する必要がある。しかしながら,充実した施設と予算のみが 研究所の評価を決めるものではない。研究所が持っている高い研究レベルを向上させようとする一層の努力が要求される。
停年の延長は,今後の分子科学研究所の発展に大きな影響を及ぼす問題であり極めて慎重に論議されるべきである。本小委 員会ではその点に留意して,検討結果を両論併記の形で報告することとした。今後,さらに全所的なコンセンサスが得られるよう に,広く論議を行うべきである。
(付記) 以上の文書については,第12回将来計画委員会において検討され,その討議の結果を受けて再度本小委員会を開 催し,修正を行った。最終的には,将来計画委員全員のレビューを経て,委員会報告とした。